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過ぎし日を語る 建築士法の改正と改革
平成17年11月に姉歯耐震偽装事件が発覚しました。私は、平成18年~22年まで士会連合会の「教育事業委員会」に所属していましたので、事件に伴う士法改正の国交省の考え方‥国会審議の経緯などは、タイムリーに接する機会がありました。当時、国交省の「社会資本整備審議会・建築部会」では、建物の安全性確保の為、「早急に講ずべき施策」として…!
*建築確認審査の厳格化と中間検査の創設
*建築士の処分・罰則の強化
等が審議され、法案は平成18年6月、早々に成立… 翌年、平成19年6月20日に施行されました。
審査の厳格化と構造計算適合性判定(いわゆる‥ ピアチェック)の義務付けは、役所・民間を問わず検査機関の不慣れな事も有って審査の対応が遅れ、全国的に建築工事の着工が出来ず、日本経済の景況に大きく影響した事は、皆様まだ…記憶にあると思います。
続いて‥第2弾として、
平成20年11月28日からは…「新しい建築士制度」が始まり,「構造設計一級建築士」‥「設備設計一級建築士」の制度が創設されました。制度の初期的にはある程度の資格者人数を確保する必要があるので、平成20年6月~11月に「みなし講習」などを実施し、平成20年11月28日以降は正式に「登録講習機関」で講習・考査が始まり…「新しい建築士制度」の中、新しい資格‥「構造・設備設計一級建築士」が誕生しました。平成21年5月27日より、一定規模の建物は構造・設備一級建築士の設計への関与を義務付ける事になりました。
この「構造・設備一級」の資格を取得するには… まず「一級建築士」に合格し、5年以上構造・設備の業務に従事した後に、登録講習機関の実施する「講習・考査」に合格しなければなりません。
法改正前までは‥!構造設計を業務としていた方々は、一級建築士の資格はなくとも、元受設計者の氏名で申請をすれば、別に問題は無かったのです…が!
法改正後からは‥ 構造担当者の氏名、資格等の記載が必要になり、元受設計者は「構造一級」の資格者を意識し、一定規模以下の建築であっても資格者を要求されるようになり、廃業に追い込まれた方々もいました。まず… 難関と言われている「一級建築士」に合格してから‥5年の実務を要してやっと…!「講習・考査」を受講できる資格が与えられるのです。特に設備設計の方々は、機械系・電気系の方々が多く… 建築士の受験資格などを考えると‥「設備一級建築士」は設備設計を本業として業務についている方々にとっては、超‥ 難易度の高い資格だろうと思います。「設備一級」は法改正の審議時点に於いて、構造が一級なら、設備も一級だろう… という考えではなくて、改正時、現に存在していた資格、「建築設備士」の活用を考えた方が良かったと思っています。
建築設計事務所を開設するにあたり、事務所を管理する「管理建築士」が必要ですが…!建築士の試験に合格すれば、「管理建築士」として、改正前までは即、登録が出来ましたが… 改正後では、合格後、3年以上の建築士としての実務実績を経て、登録機関の「管理建築士講習」を受講し、終了考査に合格後、設計事務所の「管理建築士」として登録をする事になりました。(管理建築士の要件強化です)
その設計事務所に勤務し、業務に当たる建築士は3年毎に、登録講習機関が実施する「定期講習」の受講が義務付けになりました。これについて‥ 審議会の討議では、当初「建築士免許の更新」を考えたようです。当時‥ 大臣の考えも、そのように報道されていました。 しかし‥ 内閣法制局の考えは、「大臣資格として資格審査を経て、大臣が認めた者を、違反行為が無い者の免許を失効させる事は出来ないのでは‥!」との見解が出てきました。そこで…定期に建築士の資質の向上を図るという事で、「定期講習」の受講を義務付ける事で、決着しました。
この法律では、全ての建築士ではなくて、設計事務所に所属する建築士は、「3年以上5年以内に省令の定める期間毎に、講習を受講する事」と定めています。国会審議の中で…「3年…5年どちらにするのか‥?」という質疑があって、「3年です」と答弁がありました‥!と、士会連合会での会議中にこの情報が飛び込んできました‥!決まりです。「3年毎」です。
士会連合会では、この「定期講習」の実施機関として国交省から指定されるように、申請の準備体制を考えていました。しかし… 当時の国交省の考えは…「建築士を取り締まるのに、建築士が会長をしている機関に任せる事はない」と…一喝だったようです。
そこで… 国交省は建築士資格試験を担当している、「公益財団 建築技術教育普及センター」を登録講習機関としましたが… この公益財団には、全国的に講習等の活動ができる組織を持っていません。… 結局…!国交省の仲立ちで、公益財団の管理の下、建築士会各単位会が財団と毎年委託契約をして、運用を担当する事になって… 現在に至っているのが現状です。
今は総合資格などの民間組織も登録講習機関になっています。姉歯偽装事件は、建築士法に基づいた業務手続きを一変させ、やたらに国の「登録機関」が増えた事は間違いないと思います。
私は、平成26年5月の香川県建築士会の総会に於いて、会長に就任し、同時に平成28年6月まで、中四ブロック会の選任により、連合会理事に就任しました。
この理事の任が終了する時(平成28年6月)に、「建築現場に建築士がいない…?」として、建築士の法的制度の改革を問うレポートを、当時の連合会の専務理事等の主要な方々に配布し、ご意見を伺った経緯がありました。
このレポートは、資格試験の難易度の違いから、建築士ではなく施工現場オンリーの資格「建築施工管理技士」の資格で現場の業務をこなしてる現状と、建設業法の「経営事項審査」‥(経審)に於いて、建築士と施工管理技士との法的扱いについて、改善を考える‥内容でした。
経審の技術者評点では、「一級国家資格者」と有り、要は「一級」「1級」‥ 同列に配点されます。会社も技術者個人も、「設計・監理」をしないので、難易度の高い「建築士」ではなく、「施工管」で充分であると‥! 言っています。これにより、多くの施工現場での建築技術者は「施工管」の資格に留まるようになりました。
施工管の資格創設以来、約40年を経過した今日に於いて、施工現場に建築資格の中で総合的な資格である「建築士」が、定年退職等で企業を去り、建設現場に建築士が非常に少ない状態になっているのが現状です。
近年、公共団体の発注形態も多様化するようになりました。「PFI事業・デザインビルド」など、設計当初から施工分野が関わり、施工計画・技術力に裏付けされた工程管理・予算額等を請負う方式が最近目に付きます。技術者のいない地方公共団体にとっては、便利で楽な発注方法として考えられています。このような方式での請負の場合、施工分野には「建築士」が必ず必要になると考えます。
施工企業の現場での技術者の育成は、一定の水準で選抜され、物事を総合的に判断ができる事がベースにあって欲しいと考えます。施工会社でも、社を挙げて「一級建築士」の資格を取得するよう声をかけているようですが‥!結果がでない。現状として技術者不足は明らかであり、経営者にとって重い課題かもしれません。
このレポートに対して、翌年の平成29年6月の連合会総会時に、「中四ブロック会」の意見として、「タスクフォーク」を立上げて、今年12月に開催される全国大会(京都大会)於いて、三井所連合会会長に提言出来るよう‥検討してもらいたいと‥ 正副会長会からの要請がありました。
中四ブロック会長会として…!「施工現場に建築士の配置・経審の資格評点の改革・建築士の受験制度の改善・定期講習制度の改善」等を「提言書」としてまとめ、京都大会で三井所会長に提言をいたしました。
この提言書を受け、連合会(技術委員会・施工部会)で検討され、アンケート調査を平成30年2月に実施、この調査結果を踏まえ、三井所会長が記者発表を行い「施工系人材の建築士資格取得」の必要性を、建設業界に提唱されました。
建築士・建築事務所で構成する三つの業界団体(士会連合会・日事連・JIA)があります。国交省などへ法改正を陳情するには、この三会の同意が必修条件だそうです‥!そこで、士法の改革案の作成に向けて、事務局ベースで検討を重ねていただきました。
三会‥!それぞれ、会の立ち位置・組織の成り立ちの相違により、各改革案に対しての考え方の違いが多々あったようです。
他団体は「施工現場に建築士の配置」よりも、建築士の高齢化・受験者の減少等の試験制度の改革の方に、より関心が高かったようです。
結果的に、三会の合意は次の項目が主な改革案となりました。
*受験機会の早期化を図るとして、受験時の要件であった「実務経験」を後廻しとし、建築士登録申請時の要件とする。
*その実務経験の実務の内容・範囲を見直し、姉歯事件の時に絞り込んだ実務内容を、今一度検討し拡充を行う。
*学科試験の合格者が受験できる「製図試験」を、柔軟に受験できるよう検討する。
(現状では三度不合格となった場合、再び学科試験からの受験になるが‥!受験の回数・機会も選択出来るよう検討する。)
などが主な改革案になりました。
提言書の眼目であった、「建築士の法的立場の改革」として、経審などの建設業法と士法の絡みなどは、中央建設業審議会などで討議され、建設業界の方々全ての理解が必須だそうです。
今回は、もう少し論理的に検討を深め、慎重に事を進めよう‥!という事になり、三会の合意までには至らなかった‥!ので、今回の陳情案には記載されませんでした。
「建築施工分野における建築士の配置促進」‥ 京都大会での提言書とは方向性に少し違いがありますが‥!受験要項を柔軟に考え、建築士を目指す技術者が多くなるのであれば、試験制度の改革も必要だろうと考えました。(改革も一歩‥一歩です)…!
平成30年6月5日に、「建築士資格制度の改善に関する共同提案」として、日事連の力添えで「自民党建築設計議員連盟」の先生方に、三会の会長名で正式に陳情いたしました。
自民党の「総務委員会」での法案の賛否は、全員の賛成が必要だそうで‥ 他の先生方のご理解を得る為、三会の会長・専務理事等が機会あるごとに、ロビー活動を行い…!「議員立法」として、平成30年(2019)12月8日、臨時国会の会期末の深夜に法案が成立しました。
法案の成立後、政省令を改正して、令和2年(2020)3月1日より新しい資格制度が施行となった‥わけです。
新しい制度では、建築士を目指している若者にとって、早期に見通しを持って資格の取得が可能になり、ひいては三会の会員の増加にも繋がると思っています。物事は、一朝一夕には成りませんが、これからも三会は関係機関に対して「 資格評価点数の改革」・「定期講習制度の改革」などの協議の場を設け、機会あるごとに声を挙げていただき、建築士の「法的業務環境」の改善を図っていただきたいと願っています。