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最近の建設業界の動きについて

合田 耕三
合田 耕三
(株)合田工務店

 香川県建築士事務所協会の創立50周年という節目の年に原稿を書かせていただきますことを大変光栄に思います。うまく表現できないかもわかりませんが、最近の建設業界の動きについて感じていることを書かせていただきます。内容につきましてはいろいろご意見もあるかと思いますが個人の感想ということでお許しいただきたいと思います。
 2020年そして令和2年、現在の建設業界は高齢化と共に深刻な人手不足が発注業務をはじめとし、設計、施工管理、技能労働者(職人)、維持管理と建設業界のすべての分野に広がり、計画通りの事業を進めることに支障をきたす状況に陥っています。また、建築コストも人手不足による労務費のアップにより大きく上昇しています。建築技術者に限って言えば、知識と技術を持った建築士の不足が問題です。かたやそのおかげで発注が遅れ工事の平準化が進んでいるということが起こっています。しかし人手不足はICT(Information and Communication Technology)の活用で社会全体の効率化を進めており、AIやIoTといったデジタル化の進展により生産性を高める動きが始まっています。設計業務においてもBIMの導入が始まり、組織を持った大手設計やゼネコンが、あらゆるデータを集め独自のBIMシステムの構築に全力をあげています。そしてハウスメーカーは中堅ゼネコンやデベロッパーをM&Aして組織力を強めています。ICTの発達は業務を効率化することができますが、大きな労力と投資ができる組織とそうでないところの格差を進めます。今IT業界ではGAFAといった、アメリカの企業が世界の経済をリードしていますが同じことが建設業界でも起こると思います。優れたBIMというプラットホームを持った一部の組織が業界全体を征圧することが起こり、発注もその組織に頼らざるを得ない(AIがBIMを使って建設の全ての工程を管理する)時が来るのではと思います。設備を含めた設計施工一括発注方式で維持管理コストまでを評価対象とする様な新たな競争発注方式が当たり前になる時がきそうな感じがします。
 国土交通省ではBIMを活用した建築生産プロセス等の将来像について審議が進められています。その中の最終目標はAIによる設計の自動化、AIによる設計の審査、建築資材の自動発注、生産そして省力化ロボットの導入、センサーを駆使した安全管理などからその先は無人施行までを視野に議論されています。コンピューターの中で何度も建物を設計し施工し、最適な答えを出すまでシュミレーションすることが可能となってきています。建築生産は単一種、現地生産が基本であった故に工場生産(工業化)は難しいと考えられていましたがそれも覆ることになりそうです。技術革新と人手不足、労働環境の改善が新しい建築生産のプロセスをつくり始めています。自動車を生産するのと同じ様に、できる限りの部品を共通化し、工場で大量生産することによりコストを削減し、現場は組み立てと最後の仕上げだけをすることにして人手がかかる作業を減らし、短期間で完成を目指すシステムが作られてゆく様に思います。それは建築コストの面からも要求が強まります。現在の状況のように建築コストが上がってゆけば採算に合わず、そのうち新築は難しくなります。一部の住居や作業空間が車にとって変わられることがあるかも分かりません、建築の分野だけで考えていると全く違う分野から思いもよらない答えが出されることになるやも知れません。住居がそしてオフィスが土地に固定されている必然はないのですから。物流の分野においても、店舗で品物を並べてお客さんに来てもらって販売する商売の仕方が、スマートホンでカタログを見て注文すると品物が自宅に届く通信販売のビジネスが増えています。店舗は不要で、品物を配達する仕組みがあれば商売が成り立つわけです。10年前のリーマンショックの時とは業態が大きく変化しています。
 さてこれからの10年で建築という産業はどの程度進化してゆくのでしょうか?建築士事務所は大手の組織設計の事務所と中小の事務所の格差がますます広がってゆくことになると思います。中小の事務所はそれぞれの個性とスキルを大切にしながらも共同と協調ができることが不可欠です。緩やかな提携関係を作り、ひとつのプロジェクトにそれぞれの事務所が得意分野の力を結集して業務を遂行する体制づくりが必要です。また既存建物を守ってゆく技術を大切にすることも大事です、AIには真似できない感性を磨き、建物を大切に維持・保存することが社会的な使命になるのではと思いますし、そこにこそ伝統を大事にする地域の建築士事務所としての存在価値があるのではと考えます。また、時代が変化してゆく時は大きなチャンスがあるものです、小さなアイデアが大きな成功につながることが出てくると想像できます。大きな組織ではリスクテイクできないことが小さなところでは簡単にできることもあるのです。ICTの進化で建築生産という物づくりが機能性と芸術性そしてコストをどの様にマッチングしてゆくか楽しみです。若い建築士の皆さんの活躍が期待されますし、ベテランの人たちはそのための土台を築いてゆかねばなりません。10年先、20年先、建築設計のスタイルはどの様になっているかはわかりませんが、時代は確実に変化しています。いろいろな道がありますが、さて皆さんはどの道を選択して、どう歩んでゆきますか?


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この記事について

このページは、sekkei-kagawaが2020年6月24日 16:30に書いた記事です。

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